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ペットが主役の民泊をどう設計するか。「にこの家」に学ぶ、ペットリフォームの考え方

目次

    床材の選定から押し入れの転用まで、貫かれているのは「体感して選ぶ」という設計主旨。

    「にこの家」が誕生するまでの軌跡を、素材の選択と空間づくりに込めた哲学から紐解きます。

    埼玉県秩父市に、犬も猫もうさぎもフェレットも、どんなペットでも人と同じ布団で眠れる宿があります。

    「にこの家」——オーナー夫妻が愛犬・にこと暮らしながらつくりあげたこの民泊は、設計・施工を担当したリフォーム会社・アーバンシステム株式会社(以下アーバンシステム)との出会いから生まれました。

    「ペットが最優先、人は二の次」という施主の要求に、どう向き合い、何を選んだのか。

    インテリアプランナーであり二級建築施工管理技士のアーバンシステム・齋藤さんに、素材と空間づくりの判断を伺いました。

    出会いは、ペットイベント。家づくりが始まったきっかけ

    出会いは、ペットイベント。家づくりが始まったきっかけ

    山中湖の緑豊かな自然環境を楽しむことができる体験ショールーム「ワンラバ」。

    アーバンシステムと「にこの家」オーナー・石川夫妻の出会いは、2025年春。

    東京都立川市の昭和記念公園で開催されたペットイベント「しっぽフェスタ」でした。

    同社のブースを訪れた石川夫妻と愛犬・にこ。

    自らのマンションの床材に悩んでいた石川夫妻は、ペット対応の床材に興味を持ち、齋藤さんに声をかけます。

    しかし齋藤さんが説明の際に提案したのは、床材のサンプルではありませんでした。

    「サンプルを見せても、小さな切れ端ではわからないんです。だったら実際に泊まって、床を踏んで、人も犬も体感してもらいたいなと」

    アーバンシステムは山中湖に、完全ペット対応のマンションを体験型ショールームとして保有しています。

    来場者を1〜2泊招待し、実際の住まいとして使ってもらいながら、床材や設備、リフォームした空間を体感してもらうという手法です。

    石川夫妻はそこに宿泊し、以前から思い描いていた夢に確信を得ました。

    「ここと同じような感じの宿泊施設を、秩父でやりたい」

    ——それが、「にこの家」の起点になりました。

    人が描かれていたら、採用しない」──“ペット最優先”の設計思想

    人が描かれていたら、採用しない」──“ペット最優先”の設計思想

    齋藤さんが、施主の石川さんに当初提案したパース

    施工の依頼を受けた齋藤さんは、石川夫妻のコンセプトをヒアリングしていく中で、これまでの仕事では聞いたことのない言葉を受け取ったと言います。

    「ペットが最優先、人は二の次。ペットがストレスフリーに過ごせるなら何でもやる、と言われて。まあそうは言っても程度はあるだろうと思って、最初のプランを描いたんですね」

    居室のデッドスペースを活かしたデイベッドの提案。パースには人と犬を描いて渡しました。

    返ってきたのは、シンプルな一言。

    「人が描かれていなければ採用するけど、人がいるなら採用しない」

    齋藤さんはそこで理解しました。これは本気だ、と。

    「どんなに『ペットにいい家を』と言っても、そこまで徹底されている方は、今までお会いしたことがありませんでした」

    床材は3種類。「最適解は、体感しかない」

    床材は3種類。「最適解は、体感しかない」

    1階は1部を除きロボフロアー。2階は各部屋ごと床を変えているので「踏み試し」ができる

    「にこの家」の各部屋の床材は、あえて統一されていません。

    1階全体と2階廊下にロボフロアー(アスワン株式会社)。

    2階寝室のひとつにはUSHUI-TA[ウスイータ]滑り配慮(パナソニックハウジングソリューションズ)

    2階のもうひとつの寝室にはUSHUI-TA[ウスイータ]AJパーフェクトコート(ペットライフスタイル)

    と、素材を部屋ごとに変えています。

    これは、齋藤さんが施主に言った言葉に根ざした設計主旨でした。

    「ペットに適した床材は、メーカーのカタログでもSNSの情報でもたくさん溢れています。でも『自分の犬に何が最適か』を分かっている人はほとんどいません。だったら実際に使ってもらって、選ぶ一助になればいい」

    民泊でありながら、ショールームでもある——山中湖でアーバンシステムがやってきたことと、石川夫妻のコンセプトが、ここで一致した瞬間でした。

    ペット対応の床材にロボフロアーが選ばれた理由

    ペット対応の床材にロボフロアーが選ばれた理由

    齋藤さんの自宅。愛犬の「大福くん」のためにロボフロアーを使用

    各部屋に敷いた床材の中で、とりわけ齋藤さんが推すのが「ロボフロアー」です。

    「選定の基準は3つ」と齋藤さんは語ります。

    それは①滑りの排除 ②耐久性とメンテナンス性 ③意匠性。

    「『滑りにくい』と謳っている床材は山ほどあります。しかし、ほとんどが小型犬に限定している。そんな中、ロボフロアーは大型犬でも基準外にしていないんです」

    実は齋藤さん自身も柴犬と暮らしており、某ペット用フローリングからロボフロアーに張り替えた経験があります。

    「うちの犬、10歳になって関節を悪くしてしまって……もっと早くに変えておけばよかったと後悔しているんです」

    石川夫妻もかつて、ジョイントマットや他のペット用フローリングを試したことがあったそう。

    「滑り止め加工があっても、にこが滑る経験を何度もして。最終的にロボフロアーにたどり着いた」と話します。

    齋藤さんの自宅のロボフロアーは、すでに7〜8年の使用実績。その間、メンテナンス等のストレスもないと言います。

    「120℃のスチームクリーナーをかけても問題ないので、粗相をしても落としやすい。毛足が短いループ構造じゃないから汚れが溜まらず、掃除がしやすいんです」

    モールテックスが宿の顔になる理由

    モールテックスが宿の顔になる理由

    モールテックスで仕上げたバーカウンターで、大人時間を演出

    玄関土間、カフェ風カウンター、ペットスペース。

    「にこの家」の空間の要所には、左官仕上げ材「モールテックス(MORTEX)」が使われています。すべてアーバンシステムからの提案です。

    「量産の内装材では出せない色彩や濃淡、職人の手仕事があります。モダンにもヴィンテージにも表現できる素材なので、ポイントとなる場所に使います。多用するとくどくなるので、ピンポイントで」

    玄関土間に選んだのは機能と経験の両面からの判断。

    「宿泊者の第一歩になる場所を『何これ!』と驚かせる空間にしたかった。土足での使用に耐える耐久性も、モールテックスなら問題ありません」

    キッチン横のカフェ風カウンターは、アーバンシステムが多くの物件で実施してきた定番設計で、シームレスな仕上げが可能なモールテックスとの相性が良いそう。

    キャットスペースにはモールテックスに「さくら色」を混ぜ、空間を華やかに演出しています。

    押し入れは壊さず、猫の城に

    押し入れは壊さず、猫の城に

    ペットスペースはリビングの落ち着いた場所に。齋藤さん手作りのキャットタワーでくつろぐ、アーバンシステムのスタッフの愛猫「リリーちゃん」

    1階の押し入れは、ペット専用スペースへと転用しています。

    上半分はキャットステップとキャットタワー、下半分はケージスペース。

    「押し入れ周りは板張りで建具の枠がある。全部壊すと周囲に板を張り直さないと収まらなくて、コストがかかる。だったら残して使おうと」

    キャットタワーの設置には工夫が必要でした。

    中段の棚板に40cm角の大きな穴を開け、下地補強をして、天井高のキャットタワーをそのまま通しています。

    キャットステップは「猫のための木工所」から取り寄せた製品で、板・クリアアクリル・ボウルの3種類から構成。

    一段だけクリアにすることで、ステップを踏む猫の肉球が、下から見えるようになっています。

    屋外の床は、クールターフで変わる

    屋外の床は、クールターフで変わる

    猛暑により、人工芝は驚くほどの暑さになることが。素材の良し悪しに左右される

    今回の施工でもう一つ齋藤さんが評価するのが、屋外に使われた人工芝「クールターフ」です。

    「4〜5年前から気になっていた素材で、やっと使う機会が来ました。ペット向け物件の屋外の床としては、今はこれがイチ押しですね」

    夏場でも熱を持ちにくく、ペットが排泄しても水洗いで清潔に保てる設計が特徴。

    都市部のマンションベランダへの施工は管理組合との兼ね合いで課題があるものの、戸建てや庭のある施設への展開には十分な実用性があると見ているそうです。

    トラブルの後に育まれた信頼

    トラブルの後に育まれた信頼

    石川夫妻(写真左・中)と愛犬のにこちゃん。齋藤さん(写真右)に信頼を置いている

    石川夫妻はオーナーとして振り返ります。

    「自宅のリフォームで一度、ロボフロアの両面テープの糊が染み出してベタベタになったことがあったんです。相談したらすぐに全部張り替えてくれて。全面を張り替えるなんて思わなかったので、そこで信頼度がぐんと上がりました」

    その後は、齋藤さんにデザインをほぼ一任するようになった石川夫妻。

    照明器具や、玄関のキャットステップも「気づいたら、ついていた(笑)」そう。

    「自分たちのことをよく熟知してくれている。イメージにも間違いがないんです」と石川夫妻は笑います。

    「もちろん、あまりよく知らないうちからは、勝手なことはしないですよ(笑)。でも、ご夫妻のお話をよく聞いた上で要望を汲み取り、『これをやらなかったら後々後悔するだろうな』という部分は、サービス施工の許容範囲内で先まわりしてつけちゃいます」(齋藤さん)

    互いの間に育った信頼が、設計の自由度を生んでいるようです。

    「住宅の一歩先を行く空間を、住まいに持ち込む」

    最後に、齋藤さんはこう話します。

    「素材探しと選定は永遠に続きます。個人的には、ホテルや店舗の空間づくりの知見を住宅にうまく溶け込ませていきたい。この『にこの家』はその一歩になると思います」

    ペットのリフォームの依頼は増えています。

    しかしその多くは、既製品の選択と組み合わせにとどまっているのではないでしょうか。

    「にこの家」でアーバンシステムが示したのは、施主のコンセプトを起点に「素材を選ぶ理由と使う文脈を、自分たちで作れるかどうか」という問いではないかと感じました。

    齋藤さんが手がけた「にこの家」を動画でもご紹介しています!

    取材・文:AMILIE編集部

    取材協力:アーバンシステム株式会社

    東京都練馬区を拠点とするリフォーム会社。ペット向けリフォームを専門とし、山中湖に体験型ペット仕様ショールームを保有。インテリアプランナー/二級建築施工管理技士/福祉住環境コーディネーター・齋藤さんを中心に、素材探索と空間設計を強みとする。