目次

愛犬が家具や壁にぶつかったり、近くにいる飼い主さんに気付かなかったり、落ちたごはんやおやつに反応しなかったり。
「もしかして目が見えていないのでは?」と心配になる飼い主さんもいるでしょう。
犬の目が見えなくなる原因は老化・病気・生まれつきの異常などさまざまです。治療をしつつ、目が見えていなくても安全で豊かに暮らすための方法はあります。
この記事では、認定動物看護師の資格を持つ筆者が「犬の視力低下の原因」「暮らしの中で気を付けたいことや工夫」などを詳しく解説します。
もともと犬の視力は0.2~0.3程度

犬種や個体により差はありますが、そもそも犬の視力は人間で言う「0.2〜0.3」程度だと言われています。
焦点を合わせる能力が低くぼやけた近視のような視界です。
しかし犬は「広範囲を見渡せる視力」に長けていたり「高い動体視力」を持っていると言われています。
暗闇での視界は人間の約5倍
犬は暗闇での視界が人間の約5倍だと言われています。これは、タペタムという”目の中で光を反射させて目の神経に届ける部位”があるためです。
暗がりで犬の目がキラッと光る様子や、カメラのフラッシュで犬の目が光って写る様子などは、タペタムに光が反射しているためです。
犬の目が見えなくなる原因とは?

ここでは、犬の視力低下や失明の原因を詳しくまとめました。
目の表面や水晶体の異常

目の表面にある角膜や目の内部でレンズの役割を持つ水晶体は、共通して光を取り入れて目の神経に届ける役割があります。
角膜や水晶体の異常で目が見えなくなることは、犬の視力低下や失明でもよくある原因です。
代表的な3つの例を見ていきましょう。
【白内障】
透明なゼリー状の組織である水晶体が白く濁る病気です。
水晶体は、受け取った光を屈折させて視神経に届けるレンズのような役割があるため、水晶体が濁ると上手く光を届けられなくなります。
老化や糖尿病によって併発することが多く、犬の中ではよくある目の病気の一つです。
【水晶体脱臼】
その名の通り水晶体が元ある場所から脱臼してしまう病気です。
水晶体を支える細い靭帯が何らかの原因で弱くなったり破れたりすると発症します。
予防は難しく、発症しても体調はとくに変わりないことが多いです。
目が見えなくなるだけでなく、ブドウ膜炎・緑内障・結膜炎など二次的な病気を発症するリスクがあります。
【角膜の損傷や色素沈着】
目の表面にある角膜は、細菌などから目を守るだけではなく光を集めて眼球内部に導く役割があります。
そのため、角膜の損傷や色素沈着が起きると上手く光を取り入れられず目が見えにくくなるのです。
網膜(光を受ける場所)の異常

網膜とは目の内側を覆う膜で、受け取った光信号を視神経から脳に伝える役割を担います。
カメラに例えるなら、水晶体がレンズ・網膜がフィルムです。
網膜に異常が生じて目が見えなくなる代表的な3つの例を見ていきましょう。
【進行性網膜萎縮症】
網膜が少しずつ萎縮して薄くなり、最終的には失明する病気です。
初期症状としては、暗いところで壁やモノにぶつかることが多くなります。
進行するにつれて、明るい場所でもぶつかったりふらついたりするようになり、動きが鈍くなっていくのが特徴です。
詳しい発生原因は分かっていません。トイ・プードルやミニチュア・ダックスフンドによく見られる遺伝性疾患とも言われます。
網膜は外界から受け取った光信号を映し出して脳へ伝える場所であるため、網膜が萎縮すると目も次第に見えなくなります。
【突発性網膜変性症】
「突然目が見えなくなる」というのが突発性網膜変性症の特徴です。
網膜にある細胞が何らかの原因でどんどん死滅することで、ある日いきなり目が見えなくなります。
初期症状では落ち着きが無くなる・興奮する様子が見られる・物にぶつかるなどが多いです。
早期の治療開始で視力が回復することもあるため、早めに診察を受けましょう。
【網膜剥離】
網膜が剥がれ、視力を失う病気です。
痛みを伴うことはなく、片目だけ発症する場合があるため、初期段階では飼い主さんも気付けないことが多いでしょう。
気付いたときにはすでに失明し治療が困難なケースが多いです。
高血圧やブドウ膜炎など他の病気が原因で発症しやすいため、原因に対する治療を早期に開始することで予防できるでしょう。
その他の異常
ここでは上記で挙げたもの以外で考えられる原因を4つまとめました。【老化】
犬も人と同様、老化によって視力が弱まる傾向にあります。
とくに多いのは白内障や緑内障です。
老化による視力低下を防ぐ策はないと言われていますが、点眼薬・サプリメント・食事の工夫などで進行を遅らせることは期待できます。
動物病院で相談してみましょう。
【ブドウ膜炎】
ブドウ膜とは、血管・血流が多い目の中の膜の総称です。
外傷・白内障・結膜炎・感染症・アレルギー・免疫介在性疾患などさまざまな原因によってブドウ膜が炎症を起こして発症します。
ブドウ膜炎は痛みを伴う病気です。目をショボショボさせる・目を床に擦りつける・涙が増えるなどの行動や症状がよく見られます。
炎症が進むと視力低下・失明などに至るため、早めの発見・治療が必要です。
【緑内障】
生まれつきの異常や他の病気などが原因で眼圧が上がり、目の神経の細胞が死滅することで視力を失う病気です。
原因不明の場合も多くあります。
目が内側から水圧によって押されるため、不快感や痛みを伴うことが多いです。
完治が難しい病気であるため継続的な治療が必要だと言われています。
【脳や視神経の異常】
目そのものには異常がなく、脳炎・視神経炎・脳腫瘍などが原因で目が見えなくなることもあります。
主に脳神経系の異常のため、麻酔をしてMRIでの検査が必要です。
犬の目が見えていないのかを確かめる方法

愛犬の目が見えていないのかを確かめる方法に、反射を利用する方法があります。
|
上記の方法は動物病院でよく行なう検査方法でもあります。
愛犬の視力低下が気になったらぜひおうちでもやってみてください。
また、異常に気付いたら早めに病院へ行きましょう。
目が見えていない犬と暮らすときに気を付けたいこと

ここでは目が見えていない犬と暮らすときに気を付けたいことを4つまとめました。
光や音でいきなり驚かせないように注意する
犬はもとから光や音に敏感です。目が見えないと周囲への警戒心がより高まるため、強い光や突発的な音で驚いてパニックになる可能性があります。
攻撃的になって周りの人を傷つけてしまったり、愛犬自身がケガをしてしまったりする場合もあるでしょう。
生活の中で光や音が出る場面では愛犬を驚かせないように配慮しましょう。
声をかけてから身体を触る
目が見えない犬の身体にいきなり触るとびっくりさせてしまうだけではなく、びっくりした勢いで飼い主さんを噛んでしまうこともあります。目が見えていない愛犬に触るときは、声をかけてこちらの存在に気付いたことを確認してから触るようにしましょう。
家具やモノの配置を変えない
目が見えていない犬は、覚えているニオイやモノの配置の記憶を頼りに動きます。家具やモノの配置が変わると、ぶつかってケガをしてしまうかもしれません。
テレビ台・ゴミ箱・棚などの家具の配置や、愛犬の給水器・エサ皿・ふとん・ベッドの配置など、できる限りいつもの場所から変えないようにしましょう。
段差で転ばないように注意する
目が見えていない犬は小さな段差でもケガをしやすいです。スロープを付ける・段差を使わせないなど、ケガを未然に防げるように工夫しましょう。
おすすめのスロープは以下の記事で紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
〈関連記事〉
【専門家監修】犬に段差が危険な理由とは?起こりやすいケガと対処、おすすめ対策グッズを紹介
目が見えていなくても豊かに過ごす5つの工夫やおすすめアイテム

ここでは、愛犬の目が見えていなくても安全で豊かに過ごすための工夫やアイテムを5つまとめました。
目が見えていなくても動きやすい環境に整える
前の項で「家具やモノの配置を変えないよう注意する」と説明しましたが、あった家具やモノを愛犬の行動範囲内からなくして障害物を減らすなど、動きやすい環境に整えてあげるのもいいでしょう。また、滑り止めやカーペットを敷いて転倒対策をするのもおすすめです。
〈関連記事〉
老犬が快適に暮らせるお部屋作りのポイントとは?手順やおすすめアイテムもご紹介
適度に刺激を感じさせる
犬は目が見えていないと動く頻度が減る傾向にあります。そのため、刺激が減り脳や身体の衰えが早くなるでしょう。適度に刺激を感じさせる方が犬の脳や身体の衰えを遅くできます。
おすすめの方法は以下のとおりです。
|
無理のない範囲でやってみましょう。
サークルや柵で行動範囲を限定する
極端に小さいケージに閉じ込めなければ、ある程度行動範囲を狭めるのは決して「かわいそうなこと」ではありません。犬は狭い場所の方が安心できる子も多いです。とくにお留守番中は、愛犬が危険な行動をしても飼い主さんがすぐに回避してあげられません。
サークルや柵で仕切る際は、お水・トイレ・ベッドや毛布など必要なモノを入れて快適に過ごせるようにしましょう。
ちなみに筆者の実家にいる17歳の愛犬は、老化による軽度の白内障があるため、目は恐らく「ぼんやり見えている」というような状態です。家族が家にいる間はフリーにしていて、お留守番中は安全面も考慮し畳2畳分くらいの空間を柵で作っています。
ここからは、愛犬が安全に過ごすためにおすすめのサークルやケージをいくつか紹介します。
【ゲートにできるペットサークル】

結合させれば、小型犬にピッタリのサークルに。
分解すれば、犬にとって危険が多いキッチンへの侵入を防げるペットゲートに。
1つで2通りの使い方ができるサークルです。
【伸縮スタンド簡易ペットゲート】

場所に応じて幅を調節できるペット用の柵です。
棚の横に設置したり、他のケージと一緒に使ったりすることで、愛犬が動ける範囲の広さをある程度維持しながら、行動範囲を制限できます。
【折り畳みサークルテント】

折りたたみ収納ができる八角形型メッシュサークルテントです。
折りたためば壁の間や押し入れなどにもスッポリ入れられるため、普段の生活で邪魔になることもありません。
「柵だと倒れてこないか心配」という飼い主さんでも、サークルテントなら安心して使えるでしょう。
家具や壁の角にコーナーガードをつける
家具や壁の角は、目が見えていない犬にとってはケガをしやすい危険ポイントです。コーナーガードが設置されていれば、ぶつかってもケガをしにくいでしょう。
また、プチプチ(緩衝材)でも代用OKです。
万が一迷子になったときのための対策をしておく
目が見える・見えないに関わらず、愛犬がいつ迷子になってしまうかは分かりません。目が見えていない犬の方が、迷子になったときのリスクは高いでしょう。
迷子対策は早めにしておくのがおすすめです。犬の迷子対策には以下のような方法があります。
|
大切な愛犬を危険から守り、目が見えていなくても安心して共に暮らすために、迷子対策を今一度見直してみてください。
愛犬の目が見えていなくても一緒に豊かに過ごすために
犬の目が見えなくなる原因は、老化・病気・生まれつきの異常など、さまざまです。中には早期発見・早期治療で改善が見込めるものもあるため、少しでも様子がおかしいと感じたら早めに診察を受けましょう。定期的な検診も、異常の早期発見のためにおすすめです。
また、犬は目が見えなくなると不安を感じて警戒心が強くなったり、退屈に感じてあまり動かなくなったりなど、とる行動が変わることが多くあります。
目が見えていなくても安全で豊かに過ごせるように、この記事を参考にできる工夫から取り入れてみてください。
この記事を書いたペットとの暮らしの専門家