目次
段差は犬にとってさまざまな危険が潜んでいます。身体に負荷がかかり続けるとケガにつながることもあるため、早めの対策がおすすめです。
この記事では、認定動物看護師の資格を持つ筆者が「犬に段差が危険な理由」や「段差でのケガ対策」について詳しく解説します。
犬にとって段差が危険な理由
犬にとって段差が危険な理由は大きく2つあります。
足腰に負担がかかる
犬が段差を使うとき、上るときは後肢で全体重を支え、下りるときは前肢で全体重を支えるような体勢になります。犬は普段4本足で立っていますが、段差の上り下り時は2本足で立つため、体重が足腰に大きくかかり負担になるのです。日常的に段差を使い続ければ負荷が積み重なり、骨や筋肉に限界が来て足腰を痛めてしまいます。
転倒・落下のリスクがある
人間にとっては数段の小さな段差でも、身体が小さい犬にとっては大きく高い段差です。段差からの転倒や落下には以下のようなリスクが伴います。- 脳しんとうや前庭疾患を発症し、正常に歩けない・眼振など重大な障害が残る
- 背中を打って神経が傷つくと、傷ついた神経から下の身体がマヒしてしまう
- 落下時に身体を打ち付けた衝撃で、骨折したり内臓を痛めたりする
〈関連記事〉
【専門家監修】犬にとって階段は危ない?上り下りに潜む危険性や対策、安全に階段を使う工夫
段差の上り下り時に起こりやすい犬のケガ
段差の上り下り時に起こりやすい4つのケガについて、症状・サインなどを詳しくまとめました。
- 椎間板ヘルニア
- 骨折
- 内臓を痛める
- 膝蓋骨脱臼(パテラ)
椎間板ヘルニア
(引用:椎間板ヘルニア_CT・MRI完備のONE千葉動物整形外科センター)
背骨は「椎骨」という骨が積み木のようにいくつも連なって構成されています。連なる椎骨の節々には「椎間板」というクッションのような組織があり、椎間板が飛び出すと背中に走る「脊髄」という神経を圧迫します。それが「椎間板ヘルニア」です。
椎間板ヘルニアには種類があり、ハンセンⅠ型とハンセンⅡ型があります。
ハンセンⅠ型 |
椎間板の中に詰まっているゼリー状の「髄核」が飛び出して脊髄を圧迫する。軟骨異栄養性犬種という”生まれつき椎間板の軟骨に変性が起きやすい犬種”に多い型。ダックスフンド、コーギーなどが該当する。 |
ハンセンⅡ型 |
髄核を包み込むように層状になった「繊維輪」が突き出して脊髄を圧迫する。どの犬種でもなりうる。腰への負担が積み重なることで発症しやすい。 |
以下のようなサインが見られたら椎間板ヘルニアを疑いましょう。
【犬の椎間板ヘルニアのサイン】
- 部屋の隅でうずくまることが多くなる
- 腰を丸めながら歩く
- 腰に力が入るため、お腹が常に張っている
- 腰をかがめたり丸めたりできず、トイレをしづらそうにする
- おしっこを漏らすなど排泄障害が出てくる
- しっぽが上がらなくなる
- 足を引きずる・フラフラしているなど、歩き方がいつもと違う
骨折
犬が骨折をしたときには以下のようなサイン・症状が見られます。- 脚を上げて立ち止まる
- 身体を触ると怒ったり「キャン」と鳴いたりする・嫌がる
- 足を引きずって歩く
- 元気がなくなり、部屋の端でうずくまる
細かなサインも見逃さないようにしてあげましょう。
内臓を痛める
内臓を痛めた際に見られる症状・サインは以下の通りです。- おえつ・嘔吐
- けいれん
- 口から泡を吹く
- 元気がなくなり、ぐったりする
- 尿に血が混じる
膝蓋骨脱臼(パテラ)
膝蓋骨脱臼とは、膝のお皿と呼ばれる「膝蓋骨」が正常な位置から外れてしまった状態です。段差でのケガに限らず、生まれつき膝のお皿がゆるく外れやすい場合もあります。膝蓋骨脱臼は、症状の度合いによって4つのグレードがあります。
(引用:膝蓋骨脱臼の状態を判別する4つのグレード_CT・MRI完備のONE千葉動物整形外科センター)
グレード1 |
手でずらすと簡単に膝蓋骨が外れ、手を離すと元に戻る。 まれに外れたときの痛みで急に「キャン」と鳴いたり、足を挙げたり、スキップするような歩行が見られる。 |
グレード2 |
膝の屈伸時に膝蓋骨が簡単に外れる状態。足を浮かせる様子が見られる。 膝蓋骨が繰り返し外れたり、もう片方の足でかばったりすることで関節炎が起きやすい。医師の判断により手術が適応される段階。 |
グレード3 |
常に膝蓋骨が膝から外れた状態。手で押せば正しい位置に戻る。 足を引きずる・しゃがんで歩く・ケンケンするなど、明らかな歩様異常が見られる。 |
グレード4 |
常に膝蓋骨が外れた状態で手で押しても正しい位置に戻らない状態。 足を上げたまま脱臼している足を使わずに生活するようになる。背中をうずくめて歩く様子も見られる。手術で矯正をせずにいたら、骨そのものが変形し修復困難になりかねない。 |
段差でケガをしやすい犬の種類・特徴
ここでは段差でケガをしやすい犬の種類や特徴をそれぞれ紹介します。
- 胴長短足の犬
- 小型犬
- 0~1歳のパピー犬
- シニア犬
- 肥満体型の犬
胴長短足の犬
胴長短足が特徴的な犬種といえば、ダックスフンドやコーギーがいます。脚が短いため、段差では腰で踏ん張って体重を支えます。腰が圧迫されて負荷が積み重なるため、椎間板ヘルニアを発症しやすいのです。
また「軟骨異栄養性犬種」という遺伝的な原因で椎間板ヘルニアを発症しやすい犬種にも該当します。生まれつき椎間板ヘルニア発症のリスクが高く、段差を繰り返し使うことでさらに発症リスクを高めてしまうのです。
〈関連記事〉
コーギーの足腰を段差から守るには?おすすめアイテム10選
小型犬
段差でケガをしやすい小型犬には、以下のような犬種がいます。- トイ・プードル
- ポメラニアン
- ミニチュア・ピンシャー
- ヨークシャー・テリア
- イタリアン・グレーハウンド
- パピヨン
- チワワ
0~1歳のパピー犬
パピー犬は好奇心が旺盛で高い段差を何度も上り下りする子が多いです。しかし、パピー犬の骨は成長段階であり、強度もありません。段差で転んだり着地に失敗したりすれば、衝撃に耐えきれずケガをしてしまうリスクも高いです。
シニア犬
犬も人間同様シニア期に入ると骨や筋力が弱ってくるため、段差を上り下りする際に足腰を痛めやすいです。視力や反射神経も衰えてくるため、危険の察知や回避をして自分自身を守る能力も下がります。思いもよらぬタイミングで段差から足を踏み外したり転んでしまったりすれば危険です。
肥満体型の犬
肥満体型の犬は普段から重い体重を足腰で支えているため、段差の上り下りではさらに大きな負荷がかかります。足腰を痛めて思うように動けなくなってしまえば、身体を起こすことも億劫になり適度な運動もできなくなってしまうでしょう。動くことが減れば、健康的にも良くありません。
ケガを防ぐためには、体型・体重管理も大切なことなのです。
愛犬が安全に段差を上り下りするための対策6選
ここでは、愛犬が安全に段差を上り下りするための対策をまとめました。
- 犬用のステップやスロープを使う
- 滑り止めを付ける
- 段差を使わせないようにゲートを付ける
- 高い段差を使わせないよう”しつける”
- 高い段差では飼い主さんが抱っこする習慣をつける
- ローソファを使う
犬用のステップやスロープを使う
ステップやスロープを使えば、足腰への負担をより少なく安全に高い場所の上り下りができます。【おすすめのステップ】
ステップなら「inuneru らくらくステップ」がおすすめです。足裏にも優しく使いやすい固めのスポンジ素材でできています。
また「フランスペット PE-01 ペットステップベンチ」のようなおしゃれなドッグステップもあります。
お出かけ時の段差対策には「BEBEROAD PETS 犬用ステップ」のような折りたたみ式のペット用ステップが人気です。
【おすすめのスロープ】
少しの段差もなくしたい方は「ペットスロープPS」のような傾斜の緩やかなスロープを使うと良いでしょう。
また、小さな段差も注意が必要なシニア犬には「PEPPY(ペピイ)わんこスロープ」がおすすめです。
お出かけ時、中型~大型犬など車から抱っこして降ろすのが難しい犬には「iimono117 ペットスロープ」がおすすめです。折りたたんで運べるため、荷物にならず便利です。
〈関連記事〉
ペットスロープが一緒になったソファFLUFFIRU(フラッフィル)
犬用ステップ、スロープおすすめ8商品と選び方を紹介!
滑り止めを付ける
滑り止めがあれば、段差で足を滑らせる危険性を減らせます。「置くだけ吸着折り曲げ付階段マット」は、段差に置くだけで滑り止めを設置できます。上から掃除機をかけても吸い取られることなくお手入れも簡単です。
滑り止めマットを敷くことで、足を滑らせてケガをするリスクを各段に減らせます。
段差を使わせないようにゲートを付ける
ゲートを設置して段差を使わせない方法もいいでしょう。しかし、ジャンプ力のある子はゲートを飛び越えてしまう場合があるため、体格や性格に合わせてゲートの高さ・機能性などを検討してみてください。中でも「ドギーフェンス」がおすすめです。愛犬はガラス越しに飼い主さんの姿がゲート越しでも見えます。
高い段差を使わせないよう”しつける”
最初から段差を使わせないようにするのも工夫の一つです。ゲートを設置したり、愛犬が見ているところで飼い主さんが段差を使わないようにしたりなど、愛犬の日常に「段差を使う」という動作が無いようにして行くと良いでしょう。
また「段差を使わずに”マテ”が出来たら褒める・おやつをあげる」などトレーニングをするのもおすすめです。
高い段差では飼い主さんが抱っこする習慣をつける
愛犬に「段差=抱っこ」という認識があれば、自由に段差を上り下りすることは無くせるかもしれません。愛犬にとって高い段差がある場所では「段差では抱っこする」という習慣を癖づけてみるのがおすすめです。
ローソファを使う
「ソファーからの飛び降りで骨折」は、犬の家庭内でのケガでも多いケースです。ソファーの高さを低くすれば、愛犬と一緒に安全にソファーを使えます。おすすめのローソファについては以下の記事を参考にしてみてください。
〈関連記事〉
もうジャンプさせない!愛犬を骨折から守る「ローソファー」のススメ
犬の段差対策グッズ選び方のポイント
段差対策グッズを選ぶときは以下のポイントを参考に検討してみてください。
- どこでどんなふうに使うものが欲しいのか?を決める
- 愛犬の体重・体型に合ったものを選ぶ
- 愛犬の年齢を考慮する
- 愛犬の好みを理解しながら選ぶ
- 耐久性があるか?扱いやすいか?清潔に保てるか?機能性を見る
- 段差対策グッズそのものが滑りにくく安全に使えるものか?素材や構造を見る
もしも愛犬が段差でケガをしてしまったら?
すぐに動物病院を受診しましょう。落下や転倒した後に普通に歩き始めたとしても、念のため早めに病院へ連れて行ってください。
また、段差から落ちたときにびっくりして動き回る子や鳴き叫ぶ子もいるでしょう。パニックになって動き回ると、転倒したり飼い主さんを噛んでしまったりなど、二次災害につながり危険です。
犬はケージやキャリーケースなどに入れて動く範囲を狭めてあげると落ち着くことがあります。ケージやキャリーケースが苦手で抱っこしている方が落ち着く子なら、抱っこをしていてあげる方が良いかもしれません。
段差のリスクをよく知り、できることから対策を
犬にとって段差は室内外問わず危険な場所です。しかし、対策に気を遣っていけば安全に上り下りさせてあげられます。段差によるケガのリスクを知り、まずは少しずつできることから対策に取り組んでいきましょう。
愛犬と長く健やかな身体で過ごせるよう、この記事が参考になれば幸いです。
〈関連記事〉
犬のソファーからの飛び降りリスクと安全に降りる方法
【専門家監修】犬にとって階段は危ない?上り下りに潜む危険性や対策、安全に階段を使う工夫
この記事を書いたペットとの暮らしの専門家