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特別対談“AMILIE発行人 中嶋宏一 × 建築家 前田敦さん”
ペット愛好家待望の『AMILIE MAGAZINE』が創刊されました。仕掛け人は、愛犬家の悩みや住宅の課題に長年向き合ってきた中嶋宏一氏。そして、その活動に13年間寄り添っているのが、建築家でペット共生住宅設計の第一人者である前田敦さんです。お二人が歩んできたこれまでと、創刊に寄せる思いとは。
取材・文/安藤 小百合 撮影/鈴木 愛子
建築家 前田敦さん
一級建築士事務所前田敦計画工房代表。日本大学大学院博士前期課程修了。1990年に建築士事務所を開設。ペット共生住宅の設計監理に積極的に取り組み、メディアでの紹介も多数。
ペットライフスタイル株式会社 代表 中嶋宏一
リゾート事業会社に勤務後、独立し複数の事業を創業。2004年に現在の会社の前身となる株式会社ワンオンワンを設立。犬猫と人が豊かに共生できる社会を目指して奮闘中。2匹の保護猫と暮らす。
ペットとの豊かな共生には住環境の整備が不可欠
中嶋 前田さん、おかげさまでついにこの本を創刊することができました。前田 おめでとうございます!私もうれしいですよ。
中嶋 これまではセミナーやWEBの場を使って情報を発信してきましたが、今回はこのリアルな本を通すことで、情報をもっとうまく伝えられるのではないかと思っています。ドネーションマガジンとしての発行なので、購入してくださった方の気持ちが動物たちの幸せに直結することもうれしいです。
前田 中嶋さんって、もともとは犬の教育事業をされていたんですよね。
中嶋 飼い主にしつけの重要性を啓蒙する講座の運営や、フリーマガジンの発行をしていました。その中で気付いたのが、住宅の重要性です。実は殺処分の原因の多くは、ペットの問題行動から飼い主にストレスがたまり、簡単に手放してしまうことにあるんです。動物と豊かに暮らす社会をつくるには、飼育環境の整備が不可欠ということです。
ペットは大事な家族の一員ですから、彼らを理解したうえで家をつくるのは当然のことです。「その意識をもっと啓蒙してノウハウを広く共有したい」と強く思い、2007年にこの取り組みを開始しました。初期に前田さんに出会えたのは、本当にラッキーでしたよ(笑)。
前田 光栄です。私も独立当初はペット共生住宅ではなく、公共建築をメインに扱っていたんです。あるとき住宅誌が主催するペット共生住宅のコンペで受賞したことをきっかけに、この分野を専門的に扱うようになりました。
中嶋 そうでしたね。当時は、この分野を得意とする方はごく少数で……。
前田 はい。参考資料が何もなかったので、自分で仮説を立てて、模型をつくって、実際に建ててみて……のくり返し。「住宅の天井は人間の目の高さの1.5倍だから、犬のスペースも犬の目の高さの1.5倍が良いだろう」といった要領です。それで実際に犬が快適そうにしてくれたら、その仮説は立証されるわけです。
とはいえ、動物ごとに性格も違うし、ご家庭ごとに飼育スタイルも異なりますから、前回とまったく同じではダメ。動物の生態についても自分なりに勉強しながら、試行錯誤を重ねていきましたね。
住宅のプロと住まい手、どちらも知識を持つことが大切
中嶋 これだけ犬や猫を飼っている人が多いのに、ペット共生住宅を提案している住宅会社はまだまだ少ないです。それは、これまでの住宅業界が“モノ売り”中心でしたから。ペット愛好家のために取り組んでいるプロもいましたが、ホンの一部。それではいつまでたってもこの問題を解決できません。でも、住宅業界全体がノウハウを共有することができたら、ペットの病気やケガをもっと防げるし、人間にとっても快適な住まいが増えるはずですよね。前田 そのノウハウを広める手段としてつくったのが、「愛犬家住宅コーディネーター」の資格というわけですね。
中嶋 そうです。住宅業界の皆さんに知識をつけてもらう目的で、2008年に設立しました。合格者は今や5500人を超えており、正しい知識と高い意識を持った人が増えてきていることに手ごたえを感じています。
さらに、資格取得後には、前田さん考案のペット共生住宅プラン集「PAWs Style」を使って、お客様にピッタリのご提案ができるわけです。我々が用意したこのようなツールを、どんどん活用していただきたいですね。
(ペット愛好家向けセミオーダー住宅「PAWs Style」の3Dバーチャルルームはこちら)
前田 そうですね。「PAWs Style」は、私が長年の研究から得たノウハウを標準化したプラン集なので、工夫の詰まった家を再現しやすいと思います。
車いすの家族がいたらそれに配慮するのと同じように、ペットの身体的特徴や行動を個性だと考えて、それに配慮して設計を行うのは当たり前のことです。犬は組織で生きる性質があるから家族と一緒に過ごす時間をデザインし、猫はマイペースな性格から、人とのほどよい距離感をデザインすることが必要。動物は歳をとるスピードが早いので、老後を考えた段差などの設定も重要ですね。特に犬は個体差が大きいので、「PAWs Style」では具体的な数字ではなく、「犬の目の高さの1.5倍」といった表記をしているんですよ。
中嶋 パターンメイドでありながら、豊富なオプションも含めて、それぞれのご家庭に合わせてカスタマイズできる魅力がありますよね。
前田 私ひとりが建てられる家の数はごくわずかなので、たくさんの方にこのノウハウとプラン集を利用してもらって、安全で快適なペット共生住宅を日本中に広げていってほしいんです。
中嶋 「PAWs Style」の家が全国に増えるのが楽しみですね。もうひとつ、本質的な問題でもあるのですが、そもそも住宅は専門家とユーザーである住まい手との知識ギャップが大きいことが課題ですね。
前田 そうですね……。家は人生で一番高い買い物なのに、住まい手に知識がなければ、万が一専門家が間違えていてもNOと言えないですものね。
中嶋 それと知識ギャップが大きいため、専門家主導になりがちなのでは、と。だからこそ、住まい手も率先して勉強して、家づくりのパートナーを自分の目でしっかりと選んでほしいです。私たちは、住まい手が良いパートナーと出会ったり知識をつけたりすることをサポートしたくて、WEBのマッチングプラットフォームを運営したり、本を出版したり、無料でオンライン相談ができる、全国対応の「住まいの相談窓口」を設けたりしています。こういったものもどんどん利用していただきたいですね。
この本から、ペットライフの新たな可能性を感じてほしい
前田 ペットを飼うことは、もちろん命をあずかる大変さはありますけれど、それ以上の幸せを彼らからたくさんもらえるんですよね。この本を読んでくれた皆さんが、ペットとの新たな生活に可能性を感じてくれたらうれしいですね!中嶋 まさにそうですね。私が長年この事業を続けて来られたのは、動物との暮らしを真剣に考えている建築・不動産業の人たちや建材・設備メーカーの皆さんがいるから。そうしたプロに出会えれば、「こんなこともできるんだ!」と夢が広がるはずです。
前田 そして、「こんな暮らしがしたい!」「これが夢なんだ!」というイメージを、恥ずかしがらずにどんどん伝えてほしいと思います。そうすれば、必ず期待以上の提案をしてもらえるはずです。
中嶋 動物と暮らすからこそできる家づくりがありますから、それを大いに楽しんでほしいですね。このアミリエマガジンがそれを後押しすることができたら、私たちとしても本望です。
この記事を書いたペットとの暮らしの専門家
勝部 千尋
「書く・聴く・伝える」
執筆&犬猫お悩み相談『毛玉生活』運営
ライター/犬猫相談員
経歴
静岡県沼津市出身/京都芸術大学卒
大学卒業後、オーストラリアにワーキングホリデーと...
エリア:東京都
愛犬家住宅コーディネーター