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獣医師・鷺島祥子先生
大学卒業後、都内の動物病院にて3年勤務した後、アイペット損害保険株式会社へ入社。同社ウェブサイトの「ペットと私の暮らしのメモ」では、愛犬・愛猫を健やかに育てるための飼い方や、病気・症状、お金にまつわる知識などを連載している。
まず知っておきたい!ワンちゃん・ネコちゃんにとって冬はどういう季節なの?
病気も事故も多い季節 イベントのご馳走に注意
犬は、大型で寒い国生まれの犬種(秋田犬、ハスキー、バーニーズ・マウンテン・ドッグなど)は寒さに強いですが、小型犬、短毛の犬種、シングルコートの犬種(トイ・プードルやヨークシャー・テリア)は寒さに弱いです。子犬や高齢犬は体温調節がうまくできないので、特に寒さが苦手です。猫は全体的に寒さに弱く、毛がない猫種(スフィンクスなど)は特に寒さに弱いです。一方、毛の長い猫種(メインクーンなど)はそこまで寒さに弱くありません。
いずれにせよ、飼っている犬・猫が寒がっていないかをこまめにチェックすることが大切です。
夏同様、冬も病気と事故が多い季節。特にもともと飲水量が不足しがちな猫は、寒くなってさらに飲水量が減ることで、泌尿器疾患を発症しやすくなります。呼吸器疾患や心臓疾患のある犬は、冷気を吸い込むことで咳が出たり、寒さで血管が収縮して血圧が上がり、症状が出やすくなることがあります。
また、皮膚トラブルの心配も。犬・猫は角質層が薄く、皮膚の水分を保持する力が弱いので、乾燥肌になりやすい傾向が。暖房器具によるヤケド、服を長時間着たことによる皮膚トラブルも起こります。
イベントが多い冬は、異物誤飲が多発します。チョコレートケーキやチキンの骨を食べて病院に駆け込んでくるケースは、毎年必ず起きています。
病気や事故を防ぐには、飼い主の対策が不可欠です。次ページで具体的な例を見ていきましょう。
冬のトラブルを防ぐために必ずやっておきたい5つの対策
対策1 室温と湿度をこまめに管理する
犬・猫が寒さを感じず、肌の乾燥を防ぐために、室温は25~26度、湿度は50~60%に管理するのがベスト。基本的に人が心地よいと感じる環境なら大丈夫ですが、犬・猫は低い位置で生活しているので、人間よりも低い温度を感じています。小さく丸まったり、他の暖かい部屋から出てこなかったりするときは、その部屋が寒いサイン。こまめに様子を確認して、室温を調節しましょう。
Q 皮膚が乾燥すると、どんな症状が?
乾燥から皮膚を守るために皮脂の分泌が増えたり、肉球が乾燥してひび割れしたりします。もともと皮膚トラブルを持っている犬・猫の場合、皮膚からフケが出ることも。
対策2 ヤケドを防ぐために暖房器具を管理する
冬は暖房器具でのヤケドが多い季節。ストーブやヒーターには「ストーブガード」などの柵を置き、犬・猫が直接触れないように。こたつやホットカーペットによる「低温やけど」もあるため、熱くなりすぎないよう温度をこまめに確認し、犬・猫を一定の場所に長居させないように。ちなみに、低温やけどが一番多いのはお留守番中。飼い主が電源をつけっぱなしで出かけてしまうことが原因。必ず電源を切りましょう。
ペット専用のホットカーペットもオススメ。熱くなると自動で電源が切れる、防水仕様、洗濯できるカバー付き、コードが丈夫など、安心な構造になっています。
Q ヤケドするとどんな症状が?
赤くなったり、ただれたり、水疱ができたりします。同じ個所をずっと舐めているときはやけどの恐れが。
対策3 泌尿器疾患の予防のために水を飲ませる工夫をする
冬はのどが渇きにくく、水分の摂取量が少なくなる傾向が。お皿の飲み水の減る量を見たり、オシッコの回数と量を見たりして、毎日飲水量を確認しましょう。水分不足だと泌尿器疾患になりやすいので、意識的に水を飲ませることが必要。水飲み場は寒くない場所に複数ヶ所設置し、飲水量が少ないと感じたら冷水をぬるま湯に変えてみたり、ドライフードをお湯でふやかしてみましょう。Q 泌尿器疾患になるとどんな症状が?
犬・猫ともに、頻尿になったり血尿が出たりします。トイレではない場所でオシッコしてしまうことも。
対策4 肥満を防ぐために運動量を増やす
外に出るのがおっくうな冬は、犬も肥満になる傾向が。日中の暖かい時間を選ぶなど、なるべく散歩に出る工夫を。家の中での遊びを増やすのも得策。ボール遊びは飼い主に負担がなく、犬の良い運動になるのでオススメです。運動量が少ないときや太ってきたときは、食事の量を減らす、ダイエットフードに切り替える、おやつをドライフードに替えるなどの方法も。※注意※
肥満には病気が隠れていることも!気になる場合は健康診断を兼ねて病院へ。獣医師からダイエットのアドバイスも受けられます。
対策5 イベントのごちそうを食べさせない
特にクリスマスやバレンタインなどイベントが多い冬は、犬・猫の異物誤飲が多発する危険な季節。犬・猫の手が届くところに食べ物を放置しない、キッチンの入口に柵を設ける、蓋付きのゴミ箱にするなど、飼い主が入念に対策を。カイロをかじって中身を舐めてしまうこともあるので、使用後のカイロは放置しないように。Q 食べてはいけないもの、それを食べると出る症状は?
チョコレート、玉ねぎ、ぶどう、アボカドなどは、犬・猫が食べると危険。食べてしまうと消化器症状(下痢、嘔吐)や痙攣を起こし、最悪の場合死に至ることも。
もし異物を食べてしまったら?
無理やり吐かせるのは危険なので絶対にNG!食べた物のパッケージを持参して、すぐに病院へ。いつどれくらいの量を食べたか確認して、獣医師に伝えましょう。
愛犬も人間も冬も心地よい家づくりのポイント
寒さに弱いペットにも冬を快適に過ごしてもらうためには、家づくりでどのような工夫をすればよいのでしょうか。建築家の筒井紀博さんに伺いました。建築家 筒井紀博さん
一級建築士・筒井紀博空間工房代表。「愛犬家住宅コーディネーター資格」監修。愛犬はフレンチブルドッグ(福くん・男の子)
断熱性の高いサッシ・ガラスを採用する
窓は、家の中で最も暖かい熱が逃げる場所。昨今は各メーカーが断熱性能の高いさまざまなサッシをつくっているのでそのような商品を適材適所に使いましょう。中でも愛犬家の住まいにおすすめなのは「木製サッシ」です。無塗装品に自然塗料を塗ったサッシなら、万が一犬がかじったり舐めたりしても安心です。
最も熱損失が高い、ガラスの選び方も重要です。実はガラスにも「断熱仕様」と「遮熱仕様」があり、寒冷地用のトリプルガラスなどもあります。地域性・立地条件・窓の方角に合わせてガラスの種類を使い分けると効果的です。窓だけでは不十分なら、室内のウィンドウトリートメントで効果を高めるのも得策。断熱性能・遮熱性能の高いカーテンや、ハニカムスクリーンを採用するとよいでしょう。
省エネしつつ空調効率を高める工夫をする
空調効率を高めるためには、壁や天井に断熱材を施すのはもちろん、床下に「蓄熱層」をつくるのも効果的です。例えば、床下にコンクリートを打って温水パイプを流したり、水の蓄熱層を設けたりする方法があります。コンクリートや水が蓄熱してくれるから、暖房器具をOFFにした後も家が冷えにくく、次に暖房器具を立ち上げるエネルギーも少なくて済み、省エネ効果が期待できます。さらに床下にエアコンを設置すれば、蓄熱層を温めつつ、暖まった空気を家全体に送り込むこともできて一石二鳥です。なお、床暖房を採用する場合は必ず“床暖房対応”のラグやマットを使用しましょう。通常のラグやマットだと高温の熱を持ってしまい、床暖房自体を壊してしまう可能性があるからです。
立地条件に合わせた「熱コントロール」がキモ
家づくりでまず知っておきたいのは、「断熱」と「遮熱」は別モノであること。「断熱」は中の暖かい熱が外に逃げないようにするのに対し、「遮熱」は外の暖かい空気が中に入らないようにすることです。冬快適な家をつくるなら特に意識するのは「断熱」ですが、「遮熱」もうまく組み合わせることが必要。快適な家のつくりかたは沖縄と北海道では異なりますし、立地条件によっても変わるので、家づくりのパートナーには土地の特性に合った家づくりができる建築士を選びたいものです。高気密・高断熱の家では、空気の流れをつくることが不可欠なので、法律で設置が義務付けられている24時間換気システムを必ず常時稼働しましょう。ペット臭がこもらないように、犬の居場所に換気扇を設けるのもオススメです。
熱と空気をコントロールして、一年中快適な住まいを実現しましょう。
保温性のある床材を採用する
愛犬家の家づくりにおいて、床材はとても重要な要素。保温性のある床材ならヒートショックを防げますし、さらにクッション性があり肉球が引っ掛かる素材なら、犬の足腰にもやさしくて安心です。コルク材をはじめ、パイン材やアルダー材など質量の低い無垢材が取り入れやすいでしょう。
中でも私の一番のオススメは、三和土(たたき)です。自然素材で犬に害がなく、調湿。消臭効果もあり、愛犬家の住まいに最適な素材です。一軒家をつくるなら、ぜひご検討を。
調湿効果の高い建材を採用する
冬場に加湿は不可欠ですが、湿度が高すぎると結露が起きたり、建物が傷んでしまったりすることも。湿度計でこまめに確認し、高くなりすぎないように調整しましょう。
室内に調湿効果のある建材を採用すれば、湿度が高くなりすぎるのを防ぐことができます。床材のオススメは三和土(たたき)や無垢材の木タイル。メンテナンスは必要なものの、肉球が引っ掛かりやすく、犬の足腰にも安心な素材です。壁材のオススメは、珪藻土、ホタテ貝や卵の殻を使った塗料など。調湿効果が謳われている市販品の中には、吸湿はできても放湿が苦手でカビやすい商品もあるので、注意して選びましょう。
落葉樹と常緑樹を適材適所に配置する
庭に植栽を植えるなら、「落葉樹」と「常緑樹」の配置を工夫しましょう。南側に落葉樹を植えれば夏は光と熱を遮れて冬は光と熱を取り入れられます。北側に常緑樹を植えれば、一年中緑の景色を楽しめます。落葉樹だけではさみしくなりそうな場合には、低木に常用樹を植えるのも1つの方法です。家の立地や方角に合わせて、さまざまな樹木を適材適所に配置しましょう。
愛犬・愛猫を寒さから守る厳選!建材・設備・アイテムリスト
・窓・サッシLIXIL/インプラス
アルミに比べて熱を伝えにくい樹脂でできた内窓。部屋の暖かさが持続するので、寒がりな小型犬や猫にはメリット大。結露軽減、UVカット、遮音効果もうれしいポイント。
・断熱材
コスモプロジェクト/サーモウール
シックハウスやアレルギーの原因となるVOCを吸着し分解除去する、天然羊毛の断熱材。エネルギーコストを心配することなく暖かく過ごせます。カビやダニの発生も抑制。
・空調
ユカリラ(大建工業)/ユカリラ
エアコンの暖かい空気を床下に送り、「輻射熱」に変える床冷暖房。風が直撃しないので抜け毛の舞い上がりや空気の乾燥を防ぎ、人とペットの肌にも優しい暖房です。
・輻射熱パネル
FUTAEDA/F-CON
次世代の冷暖房といわれる輻射・放射冷暖の効果を最大限に高め、室内は自然環境に近い暖かさに。パネルも高温にならずやけどの心配も不要。無風・無音が快適です。
・カーペット
アスワン/ロボフロアー
無垢板のようなリアルで上質な木目デザインのカーペット。防水処理された特殊な毛足により、抜け毛の掃除やペットの粗相対応もラク。もちろん床の冷たさも皆無です。
・断熱ドア
YKK AP/イノベスト D70 D50
愛犬のお散歩準備の時につらい玄関の寒さを軽減してくれる、高断熱のハイクオリティーな玄関ドア。防犯に配慮した電気錠を採用するなど、安心・快適性にも配慮は万全。
・壁塗装
日進産業/ガイナ
遮音・防音・消臭・空気室改善など、多くの効果がある高性能断熱塗料。外壁に塗れば外と内の熱の移動を最小限に抑制、内壁に塗布すればエアコン効率を高めて省エネに。
・太陽熱床暖房給油システム
チリウヒーター/ハイブリッドソーラーハウス
太陽熱を床下の土間に蓄熱させる床暖房。日没後も太陽熱のぬくもりで24時間家全体が暖かく、体が冷え切らないので冬の散歩も楽。太陽熱の湯で散歩後の足洗いもお湯で!
・暖房乾燥機
パナソニック/バスルーム暖房換気乾燥機
バスルームで愛犬のシャンプーをする際に気になる冬の冷え。暖房換気乾燥機があれば、暖かい環境でゆったり丁寧に向き合えます。洗濯物も一年中カラリと乾き、快適。
愛犬・愛猫との住まいにおすすめ!ガス温水式床暖房のはなし
ガス温水式床暖房はペットにもやさしい
「ガス温水式床暖房」とは、床材の下に敷いたマットに温水を巡回させ、その熱を利用して部屋全体を暖房する仕組みのこと。床そのものが暖房なので、こたつやストーブのように季節ごとのお手入れや出し入れなどの手間も不要。室内に燃焼するものやコード類が出ないので、部屋が広々と使え、愛犬・愛猫が走り回っても安心。やけどや転倒の危険を回避できます。温風が直接出てこないので部屋が乾燥しにくく、ペットの抜け毛やハウスダストを舞い上げることがないのも利点。換気の頻度も抑えられます。電気式と比べたときのガス温水式のメリット
床を直接温める電気式は、接している面に熱がこもり、低音やけどの心配も。一方、ガス温水式は、床表面の温度を25℃〜30℃に保つので、熱くなりすぎず、足元からじんわりと穏やかに暖めます。冬のペットライフが格段に快適になりますね。本記事はAMILIE MAGAZINE 3号で掲載されました。 詳しくは本誌でもご覧ください。
https://pet-lifestyle.com/property/magazine3
AMILIE MAGAZINEの売上の一部をアニマルドネーションに寄付しています。
https://www.animaldonation.org/
この施工事例を担当した企業
この記事を書いたペットとの暮らしの専門家
AMILIE編集部
ペットは大切な家族の一員として、私たちと同じ住環境で暮らしています。ほんの少しペットの目線になることで人もわんちゃん・ねこちゃんも、ともに安心・安全・快適に暮らせる新しい住まいが見えてくるかもしれません。私たちの心をいつも豊かにしてくれるペットのためにも、家族みんなの笑顔があふれる住まいについて考えていくこと。それが、「愛犬家住宅・愛猫家住宅」。
愛犬・愛猫と幸せに暮らす住まい工夫事例をお届けします。
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