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愛犬・愛猫の高齢化に備えて住まいでできる工夫とは

目次
    ペットの平均寿命が延びてくるにつれて、高齢化に伴う問題も増えてきています。
    愛犬・愛猫がシニアになった時に向けて、住まいでできる対策にはどのようなものがあるのか?
    老犬・老猫のケア施設を運営する「あにまるケアハウス」を取材しました。取材・文/松永麗美

    お話をお聞きしたのは

    ジャペル株式会社
    常務取締役 川崎 豊さん


    ジャペルは半世紀以上にわたり、ペット関連商品の卸売事業・店舗事業・メーカー事業などを手掛けるペット専門商社。高齢ペットケアの発信基地として、2021年4 月に「あにまるケアハウス」を開設。

    日本にはまだシニアペットを支える仕組みがない

    人間の認知症については介護施設や国の補助などインフラが整いつつありますが、現在の日本において、ペットの認知症に対応する仕組みはまだ皆無と言っても過言ではない状況にあるそうです。

    今回取材した、「あにまるケアハウス」のような取り組みを行う施設は大小合わせて全国に100か所ほどで、そのほとんどが個人の努力によって運営されているそうです。

    同施設を運営するジャペル株式会社の川崎さんによると、ペットの認知症については獣医学部でも試験科目に入っていないそう。この理由のひとつとして、医療技術は欧米から日本へと伝わるのが主流であることを挙げています。

    「欧米圏ではペットが認知症になった場合に安楽死を選択することが多いため、終末期ケアについての研究があまり進んでいません。しかし、日本では『大変でも最期まで面倒をみたい』という考え方が主流。これからより増えていくシニアペットとの暮らしのため、日本も独自の医療技術やケア方法を確立していく必要があるのではないでしょうか」

    長生きして、いつまでも一緒にいてくれるのは喜ばしいことですが、それには健康でいてくれることが何よりです。ペットも人と同じく、健康寿命をどれだけ長くしてあげられるかがとても大切なことなのです。

    実は飼い犬の半数以上がシニア

    国内で飼われている犬の40%が10歳以上と言われています。さらに、一般的にシニアと呼ばれる8歳以上の犬は全体の55%にも。飼い犬の半数以上がシニアということになります。シニアに差し掛かった動物たちに発生するトラブルのひとつが、筋力低下による歩行困難。また、認知症やそれに伴う徘徊行動、夜鳴きなども問題になりがちです。

    ペットの高齢化に備えて、住まいで気を付けること

    「あにまるケアハウス」の事例から、私たちの住まいにも生かせるポイントを紹介します。

    POINT1 高齢の猫は高いところに登りたがらなくなることも

    猫の場合、3段ケージなど縦の動きを重視した設備を推奨されることが多いのですが、猫も高齢になると足腰が弱ってくるので、あまり高いところには登らなくなるんですね。それに、人間側からみると転落事故なども怖い。猫は自分が老いたなんて思いませんから、いつも通り登ろうとして失敗してしまうこともあります。ですからシニア猫には危険を回避する環境を、人間側が配慮して作ってあげなくてはなりません。

    シニア猫だと3段ケージの一番下しか使わなくなることも多いのですが、この段だけだとトイレで半分は埋まってしまうし、さらに餌入れなどを置くとほとんどいる場所がなくなってしまいます。もう少し広々と過ごせる1段のみのサークルが、シニア用としてあってもいいのかなとも思います。

    猫の部屋の様子。広い空間で皆のびのびと過ごしている

    POINT2 適切な運動量は必要だが、犬の場合、階段や段差を避けよう

    ペットも人間と同じで、年を取って外に出られなくなったり動けなくなったりすると認知症が進行していきます。ですから、体幹を鍛えるトレーニングや筋力トレーニングは、若い頃からきっちりやっていた方が良いです。個々に見合った運動量をきちんと確保することが大事。

    特に大型犬などは体重があるぶん、後ろ足や腰が弱りやすいので、散歩コースに上り坂や下り坂を入れるとよいでしょう。上り坂は後ろ脚のトレーニングになるし、下り坂は前脚を鍛えられます。

    しかし、腰の負担を考えると段差は絶対に避けてほしい。これは他の犬種でも同様です。階段は関節にとても負担がかかるので、若いうちからもそうですが、特に年を取ってきたらさせない方がいいです。猫の場合は上下運動も大事ですが、犬に段差は厳禁。

    歩けるうちはステップやスロープの設置で対応して、さらに年を取ってそれらの上り下りもつらそうになってきたら、持ち上げて移動させてあげてもよいでしょう。

    POINT3 足元に注意してあげよう

    足の関節に負担をかけないように、滑りにくい床材などを選ぶのも良いと思います。

    また、年を取ると足がふらついて、家具の角に頭をぶつける事故がよくあります。ですので、犬の動線には危ない家具を配置しない、あるいは家具の角にクッションのような緩衝材を付けるのも良いでしょう。

    さらに、家電の配線に足を引っ掛けてつまずいて、それがきっかけで調子が悪くなることもよくあります。配線ガードなどを使って、犬が足を引っ掛けないように気をつけてあげてほしいですね。ここあにまるケアハウスでは、事故防止のためにコンセントを天井近くの高い位置に付けています。


    塩ビの長尺シートを敷き詰めて床のすべりやすさと建物の傷みを軽減 


    コンセントを高い位置に設置して、足が引っ掛かる事故を防ぐ

    POINT4 室内の温熱環境や防音にも工夫を

    温度計・湿度計は動物の体の高さに合わせて設置しています。同じ部屋でも上の方より下の方の温度がずっと低いこともありますから、「人間がど感じるか」ではなく「犬・猫はどう感じるか」という基準で、動物にとって最適な温度を設定するようにしています。

    民家に接している方角の窓には、二重窓・サッシを取り付けています。動物たちが生活している建物との間にドッグランを設置することで距離はある程度とっていますが、夜泣きや吠える声が聞こえてご近所にご迷惑がかかるといけないので、さらに二重サッシにすることで防音性を高めています。遮音できるだけでなく、断熱性も高まるので防寒にも役立ちます。


    二重窓にすることで防音と断熱の効果が高まる


    温度計・湿度計は動物の体に合わせて低い位置に設置

    《取材協力》あにまるケアハウス


    1泊から10歳以上の終身まで、愛犬・愛猫のお預かりを行うケア施設。3つの犬舎と1つの猫舎を備えており、340坪のドッグランなど伸び伸びと生活できるスペースを確保しています。

    住所:埼玉県加須市久下5-316-1 
    TEL:0120-57-8102
     

    この記事を書いたペットとの暮らしの専門家

    AMILIEライター

    エリア:東京都

    愛犬家住宅コーディネーター