• 公開日時:
  • 更新日時:

【一級建築士監修】夏も心地よく愛犬と暮らす家づくり

目次

    愛犬のための夏の暮らし 愛犬がよろこぶ住まいとは?

    愛犬にとって、暑い夏を心地よく、快適に暮らすための“夏の家づくり”のポイントを愛犬家住宅コーディネーターの監修も務めている、建築家の筒井さんにお伺いしました。
    編集・文/鈴木珠美 デザイン/袴田智 CG・写真・イラスト(ケージ)/筒井紀博空間工房(P26-28) イラスト/田代耕一


    建築家・筒井紀博さん
    一級建築士事務所・筒井紀博空間工房代表。愛犬とガレージ、愛犬第一主義の家など数々の愛犬家のための家を手がけるだけでなく、賃貸物件、宿泊施設など活躍の幅は広い。ポリシーは「そこに存在する必然性がある空間」。時間とともに味わいたくなる美しい建築。自らも愛犬家で車好き。
    http://ktts.jp/

    夏の家Point1 窓の在り方


    南方向には軒や庇を、東西方向は外づけ日よけでカバー
    「夏は太陽が高い位置に昇るので、南方向の窓は軒を深くしたり、庇をつけるのが効果的です。東西方向は陽光が低い位置から部屋に差し込みますから、垂直方向の遮熱材が効果的です」と筒井先生。もっとも遮熱効果が高いのは、窓の外側に設置できる屋外ルーバーや簾がよいとのこと。また最近はLow-Eガラスというコーティングされた特殊ガラスも標準になりつつあるそう。「Low-Eガラスは夏の暑さを和らげ、冬の暖房効果を高める効果があります。ガラスのタイプは大きく2つあり、冬場の遮熱性を重視した断熱タイプと、夏場の遮熱性能を重視した遮熱タイプとあるので、ご自身の地域。方角なども考慮してガラスのタイプを選ぶとよいでしょう」

    夏の家Point2 壁と天井


    夏の暑さ対策には壁と天井で温度調節
    「夏対策として考えると湿度の調節も重要な要素です。人には体感温度があり、それは湿度と関係しています。簡単にいうと同じ室温であっても湿度が低いと暑さは和らぎ、湿度が高いと熱く感じられます。具体的な対策のひとつとして、壁、天井材などに調湿効果のある素材を使うのも有効です。代表例としては珪藻土。そのほか卵の殻を使った壁材やホタテの貝殻を使ったものなどがあります。さらに副産物として、調湿効果がある素材は、消臭効果が得られる素材も多いので、ペットのニオイ問題への対策にもよいですね。注意が必要なのは、それらの素材は傷がつきやすい傾向にあります。また建材の中には、湿気は吸収しますが、湿気を放出するのが弱い素材もあるので選ぶ際には注意したいですね」

    夏の家Point3 犬の寝床


    窓際は避け、寝床の床は夏と冬で交換可能な床材を
    「とくに夏場は窓際が熱くなりますので、窓際にわんちゃんの寝床を用意するのはよくありません。直射日光が直接当たらない場所に用意するのがよいですね。また寝床の床は簡単に交換できる仕掛けをしておくとメンテナンス面でも便利です。例えばトレーを差し込めるように設計しておけば、夏場はひんやりするプレートを敷いたり、冬場はトレーの上にマットを敷いて暖がとれるようにしてもよいですね」と筒井先生。さらに愛犬の特性を理解したうえで寝床を考えるとよいそう。「たとえば人と一緒にいることが好きな犬であれば寝床を仕切る必要はありません。でも神経質なコだったり、ひとりになりたいコであればひとりでゆっくりと寝れる寝床は用意してあげたほうがいい。また穴倉で生活していたというようなDNAが残っている犬種は広すぎず、天井も高くないほうが安眠しやすいと思います」。


    「ケージ用の扉に格子を付ける場合は噛んでしまうコもいるので、噛んでも安全な素材でつくるとよいでしょう」と筒井先生。(イラスト提供:筒井紀博空間工房)

    夏の家Point4 ウッドデッキ


    高温になりにくい天然木、樹種の選定も大切
    近ごろは樹脂系の人工木を使ったウッドデッキ材が非常に多く使われるようになってきたと筒井先生。人工木には注意が必要だという。「とくに日当たりのよい場所に人工木を使うと、非常に高温になりやすい商品が多いんですね。人はもちろん犬たちにとっても危険で、肉球を火傷してしまうケースもあるので注意が必要です。その点、天然木はそれほど熱くなることはありません。ただし、樹種によってはささくれのようなものが起こりやすいので注意したいですね。また天然木には頻繁にメンテナンスが必要なものもあるので、ご自身のライフスタイルに見合う選定が必要です。メンテナンスが必要なウッドデッキの場合は、犬が舐めても安全な塗料を選ぶことも大切ですね」

    夏の家Point5 屋上


    夏の暑さ対策にも有効な屋上緑化は愛犬たちの遊び場としても最適
    屋上の有効利用には屋上緑化がよいと筒井先生。「都市部にお住まいの方で、庭のスペースがなかなか取れない場合は屋上緑化がおすすめです。ヒートアイランド現象にも一役買います。とくに都市部ですと、散歩の道もアスファルトが多くなかなかワンちゃんたちが土の上を歩く機会が少ないので、自宅に遊べる場所があると犬たちのストレスもリリースできます。屋上緑化はたとえば土の厚みは5センチくらいでも施工可能で、通常の断熱材に比べると遮熱効果も非常に高い。夏の暑さ対策に対しても有効です」

    夏の家Point6 植栽


    目隠しになる常緑樹と夏の日差しを遮る落葉樹
    「夏対策としては植栽も重要。植栽は大きく分けると常緑樹と落葉樹がありますので、この2つを適材適所、きちんと使い分けて配置することが大切です。たとえば落葉樹は、夏は葉があるから日射を遮り、冬は葉が落ちるので太陽の熱を取り入れることができます。逆に冬場、南側に常緑樹を植えてしまうと葉が落ちずに1年中、日射を遮ることになりますので注意が必要です。常緑樹の効果的な活用例としては、たとえば庭で神経質な犬を遊ばせるときは、外からの視線を遮るために外壁まわりに常緑樹を植えれば目隠しの効果が生まれます。もうひとつ大切なのは、犬にとってよくない木、苦手な木もありますから、そういう情報に詳しい植木屋さんとよく相談して選びましょう」

    愛犬家住宅mini対談


    建築家 筒井紀博さん
    一級建築士・筒井紀博空間工房代表。「愛犬家住宅コーディネーター資格」監修。愛犬はフレンチブルドッグ(福くん・男のコ)


    桝田佳正さん
    株式会社桝田工務店代表取締役。一級建築士・一級建築施工管理技士。愛犬家住宅コーディネーター、「AMILIE住まいづくり倶楽部」加盟。愛犬はトイプードル(ティナちゃん・女のコ)

    犬種の違いはありますか?

    筒井 昔、柴犬を飼っていたことがあるのですが、僕が飼っていた頃の柴犬は、人に媚びず、飼い主しか懐かないというような和犬らしさがあったのですが、今の柴犬は愛玩犬に近くなってきたように思います。

    桝田 わかります、番犬のような雰囲気ではなくなってきましたね。

    筒井 そうなんです。一概に犬の特性だけでは判断ができなくなってきていますので、それぞれの個性をどうきちんと見極めるかは重要ですね。

    桝田 しつけの仕方によっても設計は変わりますよね。

    筒井 それはあると思います。家族間でどう犬たちとコミュニケーションをとっているかによっても変わりますし、また多頭飼いだと犬たちのヒエラルキーがありますので、それらの要素も踏まえて住宅設計に活かしていく必要があります。

    桝田 現在、愛猫との住宅が多く、犬に関しては小型犬の住まいが中心なのですが、大型犬の場合、特別な注意点はありますか?

    筒井 大型犬はパワーがある(笑)。例えば木造住宅で、壁際にソファを置くというのはよくある光景。そのときに大型犬が勢いよくソファに飛び乗ったときに床が滑りやすい素材だと、大型犬の勢いにソファがずれて壁に当たり、壁に穴が空いてしまった・・・ということも。そういった大型犬の動作を想定して補強や加工を加えます。また大型犬はシニアになったときに階段がある場合、上り下りができなくなると大変になるのでホームエレベーターなどをのちに用意できるよう設計しておくといいですね。

    桝田 先々のことを考えるのは大切ですね。三角の家のようにして作った造り付けケージは、将来的に格子から扉に変更することもできますし、簡単なリフォームがしやすいようにしています。

    夏の家づくりで必要なことは?

    筒井 僕らが建築を学んだ学生のときは冬を基準に住宅設計をしなさいと教えられましたが、昨今、首都圏はとくにそうですがヒートアイランド現象が起きていて夏も考慮することが重要になってきています。周囲の環境、地域を踏まえて建築士が考え、また高気密・高断熱に対してもすべての住宅に当てはまるものではないと僕自身は思っているので、適切に判断する必要があると考えています。

    桝田 大阪市内は狭小3階建てが基本。以前は明るさをとるために天窓が主流でしたが、コロナ禍で家にいる時間も長くなり、毎年、気温が上昇していく中では、夏場の設計部分はこれまでとは違う形で配慮する必要が出てきています。

    最後に心がけていること

    筒井 愛犬主体で家づくりをするのか、人が暮らしやすい家なのか、最初の段階で伺うようにしています。

    桝田 それはとても大切なテーマですね。私たちも人と犬と共存できる空間づくりにおいては、話し合いながら一緒に見つけていくというスタンスをとっています。その過程を我々自身も楽しみながらできるように心がけています。

    筒井 僕らも家づくりの過程を楽しむことは非常に大事ですね。また打ち合わせでは、犬と話すことができないので、犬たちの気持ちを少し大げさに代弁するようにしています(一同笑)。

    ―お二方の熱い取り組みのほんの一部を今回はご紹介させていただきました。犬の気持ちに寄り添っていく過程は、愛犬家住宅ならではの愛情が注がれたお話でした(編集部談)。

    この記事を書いたペットとの暮らしの専門家

    AMILIE編集部

    ペットは大切な家族の一員として、私たちと同じ住環境で暮らしています。ほんの少しペットの目線になることで人もわんちゃん・ねこちゃんも、ともに安心・安全・快適に暮らせる新しい住まいが見えてくるかもしれません。私たちの心をいつも豊かにしてくれるペットのためにも、家族みんなの笑顔があふれる住まいについて考えていくこと。それが、「愛犬家住宅・愛猫家住宅」。

    愛犬・愛猫と幸せに暮らす住まい工夫事例をお届けします。

    >AMILIEのInstagram