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地域で協力して、不幸なネコちゃんを救いたい -保護猫ハウス「こころ」の取組み

目次

    保護猫ハウス「こころ」代表
    保木千春さん

    動物病院の傍ら、保護猫ハウスを設立

    私はもともと東京でOLをしていましたが、結婚を機に青森に住まいを移し、現在は獣医師の夫とともに青森市内で「ほき動物クリニック」を運営しています。自分自身も昔からネコを飼っていまして動物は身近な存在でしたが、仕事として接してみると多くの問題に直面しました。中でも多かったのが捨て猫の問題です。近所の方が「拾ったので飼い主を探してほしい」と子猫を連れてこられることがしばしばあり、個人で引き取ったり、病院の空いているケージで育てたりしていました。ただ、そのうちにスペースが足りなくなり、十分なケアができなくて困っていたんです。ちょうどそのころ動物病院を移転することになり、旧医院の建物が空くことになったので、改装して保護猫ハウスとして使うことにしました。
    保護猫ハウス「こころ」では、保護されたネコちゃんを一時的にお預かりして、新しいご家族とつなぐ活動をしています。繁殖期の直後は最大で60匹近くをお預かりすることもあります。SNSでも情報発信はしているのですが、ネコちゃんの性格や飼い主さんのライフスタイルとマッチするかどうかは写真ではわからないので、必ず直接会いに来ていただいて、最も合う子をご紹介するようにしています。何かあった時にこちらから様子を見に行けるように、青森市、弘前市、五所川原市を中心としています。


    保護猫ハウス「こころ」

    時代に合った飼い方をしてほしい

    初めてネコを飼う方でも、もともと飼っている方でも、譲渡するときは心構えをしっかりお伝えするようにしています。中には「ネコは家の外を自由に出歩くもの」という昔の飼い方をイメージしている方もいますので、まずはその認識から確認します。事故に遭ったり病気をもらったり虐待されたりと、ネコちゃんにとって家の外は非常に危険です。時代とともに法律や地域のあり方も変わっているので、以前のように飼うことはできないことを必ずお伝えしています。この点を重視しているのは、動物病院での業務を通して、野良猫の過酷な現実を見てきたからです。実際、保護猫の中には、人間から虐待を受けてとても臆病になっている子や、ケガや障害があって特別なケアが必要な子もいます。そうした現実とともにネコちゃんを紹介しているからか、ハンデがある子を積極的に引き取りたいと言ってくださる方が増えてきたことは嬉しい限りですね。



    20~30年前に比べて、野良猫は減ったと言われています。ですが、「こころ」にやってくるネコは絶えません。私は、野良猫はいなくなったのではなく、隠れるのが上手になったのではないかと思うんです。昔は町全体でお世話していたのに対して、今ではエサをもらえる場所も限られています。行政も「野良猫にエサをあげないで」と指導していますよね。のんびり過ごせる場所が少ないので、人目につかないところで過ごしているのだと思います。実際、「小屋でネコが出産していた」「草刈りしていたらネコを見つけた」というご連絡を非常に多くいただきます。そうしたとき、子猫を保護することは簡単ですが、それだけでなく親猫を探し避妊してあげることが必要です。放置すれば必ずまた出産し、同じことが繰り返されてしまうからです。

    保護猫ハウスが抱える課題

    当方は動物病院でもあるので、治療やケアが必要な子にはできる限りの処置を行ってから譲渡します。ただ、保護された猫はだいたい何かしらの病気を持っていて、そのまま引き取ると感染が広がってしまうおそれがありますので、検便と駆虫の費用だけは連れてこられた方に負担していただいています。そうすることで保護した方にも関係者意識をもっていただけるようで、皆さん協力してくださっています。
    保護活動において、費用の問題は大きな課題です。施設の維持費はもちろん、手術や治療にかかる費用も当方で負担しています。誰にも請求できませんし、行政からの助成もないので、やむをえず動物病院の売上の一部を寄付するというかたちで資金を調達しています。「こころ」は経営母体が動物病院と同じなので何とか運営ができていますが、実質的には自己負担であり、単独ではまず難しいでしょう。この厳しさが、同業施設が増えにくい理由だと感じています。
    スタッフの確保も大きな問題です。現在「こころ」専属のスタッフは私を含めて2名、動物病院との兼務で4名です。ボランティアでお手伝いいただいている方も少しずつ増えているのですが、動物と接する際には正しい知識が必要なので、「誰でも歓迎」というわけにはいかないんです。
    困ったときの相談窓口でもありたいので、譲渡した先のご家族とはその後も交流を続けています。SNSを通じて近況をやりとりしたり、病院でワクチン接種したついでに顔を見せに来てくれたり、人手が足りないときには手伝ってくれたりしてありがたいです。正しい知識を身につけたボランティアを増やしていきたいと思っています。

    ネコちゃんを飼うための住環境

    ネコちゃんを飼う際は、お住まいの環境をきちんと整えていただくことも重要です。最近では、窓辺にいたネコちゃんが網戸ごと落下していなくなってしまったというケースがありました。ドアのちょっとした隙間をすり抜けて脱走してしまうこともあります。意外なところに危険が潜んでいますので注意していただきたいです。また、ネコは飛んだり跳ねたりするため、捻挫しやすいです。床がすべりやすいとブレーキが利かず足を痛める危険もあります。固くてつるつるのフローリングよりは、少し引っ掛かりのある無垢材や柔らかいクッションフロアの方がケガのリスクは抑えられるでしょう。
    保護猫活動は、特別な知識や経験がなくてもできるものです。短時間だけでも預かってもらったり、引き取り手を探したりと、気軽な気持ちで多くの人が関われるような仕組みを作りたいと思っています。不幸なネコちゃんを減らすためには、地域全体で協力することが大切です。みんなで知恵を出し合えばできることはたくさんあるはずです。

    この記事を書いたペットとの暮らしの専門家

    AMILIEライター

    エリア:東京都

    愛犬家住宅コーディネーター